直江太郎物語

第三幕



直江と譲の旅は順調に進んでいます。
何故だか、カラスに見つかる事もなく、春の日のぽかぽかとした陽気の中を特に急ぐでもなく、歩いていました。
直江は高坂ばあさんから報復がない事をいぶかしんでいましたが、ないにこした事はありません。
そんな平和な旅路に新しい仲間が加わる事になったのは、旅に出て、三日目の昼下がりの事でした。


 「ん?なんか騒がしいな。」
なにやら前方から言い争っている声が聞こえてきます。
直江は何となく避けて通りたいような気がしたのですが、生憎道は一本。
そこを通らなければ、進めません。
何事もなければいいのだが、と願って、ふと隣を見れば、先程までそこにいたはずの譲の姿がありません。
 「譲さん?!」
慌てて辺りを見回した直江は譲を見つけて、さらに焦りました。
なんと、わき目も振らずに口げんかの主達の元へと駆け寄っていたのです。
 「譲さん!危険ですよ!!」
声をあげて追いかけ始めた直江の目に映ってきたのは、なんとも奇妙な風景でした。
一人の青年と“雉”がえさを取り合っているのです。
 「なっ!?」
開いた口が塞がらないと言うのはこういうときの事を言うのでしょうか?
直江は呆然とけんかを見ることしか出来ません。
しかし、すぐに聞こえてきた譲の声で直江は我に返りました。
 「ちょっと、雉さんにさるさん、けんかなんかしちゃダメだよ!」
 「サル!?」 「サルって言うな!!」
思わず聞き返した直江の声に重なって、青年が怒鳴ります。
しかし、それに怯んだ様子もなく、譲は
 「でも、あなたはさるさんでしょう?むこうやまの。」
 「そーよ、千秋!あんたサルのくせに生意気よ!!」
 「何だとぉ〜。ならなぁ、お前、女のくせに男の飯を奪うなよ!!」
 「何それ、男尊女卑?今ごろそんなんじゃ嫌われるわよ。」
再び言い争いが始まって、直江と譲は顔を見合わせてため息をつきました。
なんと言っても無駄そうな“二匹”の様子に、何も見なかった事にして、先へ進もうと隣を通ろうとしたその時、
 「それもらい!!」
そう声を掛けられたかと思うと、キビ団子を千秋と呼ばれていた青年に奪われてしまいました。
あまりに得体が知れないので、今まで捨てるに捨てれなかったのです。
そして、それを奪った千秋はあろうことか、がなっていた雉の口の中に放り込んでしまったのです。
驚いた雉は放り込まれた団子を思わず飲み込んでしまいました。
 「千秋!一体何を!・・・!」
そこまで言って、譲のときと同様に苦しそうにへたり込んでしまいます。
 「雉さん、大丈夫?苦しいの少しの間だけだからね?」
譲は少しでも楽になれば、背中を擦ってあげます。
暫くそうしていると、やはり譲の時と同様に雉の姿は消え、中から人の影が見えてきました。


 「もう!!もし私が死んでいたら、どうしてくれたのよ!!」
すっかり女の人の姿に代わった雉は開口一番に、噛み付くように千秋に突っかかっていきます。
それをうるさそうに掃って、
 「鉄の腹を持っているお前が何を言ってんだか・・・」
と、呟くからまた大騒ぎ。
そんな光景に頭痛を覚えながら、直江は二人の間に割って入りました。
 「もういいだろう。それより聞きたい事があるんだ。」
そろそろ二人とも疲れてきていたのか、すぐに言い争いを止め、直江のほうへと視線を移してきます。
 「聞きたい事って?」
尋ねてきたのは千秋の方です。
 「さっき、譲さんがお前の事を“サル”って言ってたよな?どういうことだ。」
千秋は、やはりその事か、といまいましげに舌を打ちました。
 「べっつにぃ。そのままだよ。今、人間に変わった綾子と、そんでそこの譲っていう子と同じ。
  お前も人じゃねぇよな?」
最後の問は譲に向けられたものです。
譲が頷くのを見て、千秋は話を続けます。
 「俺さぁ、すこし前にその団子食ったんだよね。」
 「何だって?」
 「まぁ、俺の場合、カラスから奪ったもんだから自業自得といやぁ、そうなんだけどさ。
  でも、まじあん時はびびったぜ。
  食ったら苦しくなってきたからさすがの俺様も三途の川を見そうだった、うん。
  まぁ、そのおかげでこの姿を手に入れたんだから、安い代価かもな。」
そう言って、頷く千秋を見て、直江は呆然としています。
 「・・・千秋、カラスからその団子を奪ったのか?」
 「あ?まぁな。」
なんとも嫌な予感がします。
しかし、思考をまとめようとしたら最後、嫌な予感が現実になりそうで、直江は慌てて頭を振りました。
 「それで、お前らの方はどうしてこんなところ歩いてたんだ?」
 「あのネ、鬼退治に行くんだ、僕達。」
千秋の質問に、譲がいち早く返事を返します。
 「鬼退治〜?」
 「悪いか?こっちにも色々と事情があるんだ。」
わざわざ答える必要はなかったのに、と直江がため息混じりにそう言うと、
千秋は少し考え込み、
 「鬼って、今巷で話題になっている、赤目の?」
 「あぁ。」 
 「・・・俺も行く。人手はあったほうがいいだろう?」
と、何を考えているのか、ニヤニヤと笑いながら言ったのです。
 「はっ?」
 「えぇぇぇ、なら私も行きたい!!千秋だけなんて、ずるい!」
さらにそう叫べれて、直江はここから先の旅程を思うと、思わず頭をかかえこんでしまうのでした。


こうして、犬だった譲、猿だった千秋、雉だった綾子、そして桃から生まれた直江の四人に増えて、
鬼退治の旅は続いていくのでした。


はい、第三幕です。どうでしたでしょうか?
予定通り、千秋に綾子の登場です。
この二人が出てくると気を抜くといつまでも口げんかをしてしまうので、気を抜けません。
次は、今回新種の頭痛の種を拾ってしまった直江の受難がテーマです(笑)
まだまだ、苦しむ事でしょう。なんたって、高坂ばあさんが今回出てきませんでしたし・・・

第四幕
五味箱に戻る

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送