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Telephone(前編) 
――――― リーン・・・。 玄関の電話から聞こえる呼び出し音。 ――――― リーン・・・。 少し遅れて、居間の端に置いてある子機も、家の主を求めて、鳴り出した。 「おにいちゃ〜ん、電話、おねが〜い!」 今、手が離せないんだよぅ・・・と、台所から少しだけ慌てた声が聞こえた。 学校から帰ってきて早々、美弥は台所に篭りっきりだった。 今日の授業で、おいしい『肉じゃが』の作り方を教わってきたらしい。 お兄ちゃんが作るのにだって、負けないんだからっと宣言して、何やら試行錯誤しながら 作っている。 どうやら、『肉じゃが』だけじゃなく、他にも何か作っているようだ。 オレは、こたつでミカンを剥いていた手を止めて、立ち上がった。 ――――― リーン。 「・・・おにいちゃ〜ん?」 鳴り続く電話の音に、しびれを切らした妹が、台所からぴょこりと顔を覗かせた。 その顔には、らしくなく眉間に皺が寄せられている。 「今、出るって」 「うん。なら、よろしい」 美弥は偉そうにそう言うと、お玉を口元まで持っていって、ふふっと笑うと台所に戻って いった。 「はいはいはい、今とりますよ・・・っと」 電話をなだめるように、そう言いながら、居間の隅でコールしつづける子機を取った。 「はい。仰木・・・」 ――――― 仰木です。と言おうしたのに、何故か、言葉が続かない・・・。 受話器の向こうから何故か暖かな気配を感じる。 そうして・・・・・・。 『こんばんは。高耶さん』 受話器から聞こえてくる声に、オレの思考は真っ白になってしまった。 低く、優しい、全身を抱きしめるように包み込んでくる声。 『おひさしぶりです、高耶さん。お元気でしたか?』 あいつにしか出せない、独特なイントネーションで、オレの名を呼ぶ。 いつもの、オレだけが知る優しい声音が、痺れるような響きをもって、甘く鼓膜を揺さぶ ってくる。 ぞくり・・・と背筋に震えが走った。 『高耶さん・・・?ずっと仕事で連絡が取れなかったこと、怒ってるんですか?意地悪しない で、あなたの声を聞かせてください』 ――――― あなたの声が、聞きたい・・・。 熱く、囁いてくる男の声に、頭の中がジンと痺れた。 思わず壊れるくらいに受話器を握り締めて、つぶやいた。 「・・・怒ってなんかねーよ」 ちょっと、びっくりしただけだ・・・と、過剰反応しすぎてしまった照れ隠しの為に、少し怒 った声で言って、受話器を持ちながら、自分の部屋に入った。 受話器の向こう側から、男が苦笑する気配が伝わってくる。 オレは受話器を握り締めたまま、ベッドに横になって目をつぶった。 『本当に、久しぶりですね。高耶さん』 耳元で、あいつの声を感じる。 優しい響きでオレを包み込んでくる。 例え、遠く離れていても、目をつぶると、すぐそばにいる気がする。 ・・・・オレ、電話って、そういうところが好きだ。 直江が言う通り、電話で話すのも、本当に久しぶりだった。 直江は、不動産会社の兄の手伝いで、この1ヶ月程、東京で残業や休日出勤をする忙しい 毎日を送っていたのだ。 前に会ったのは、1ヶ月前、温泉旅行に行った時っきり。 声を聞くことすら久しぶりだ。 直江が東京に戻ってからというもの、電話でも1、2回。それも10分や15分程度しか しゃべっていない。 電話は、直江から電話かかってくるのを待っているだけだ。 電話したくなかったからじゃない。 本当は、声なんて、毎日だって聞きたい。 でも、忙しいとわかっている時に、電話をかけて邪魔したくなかった。 オレから電話なんてしたら、さびしく思っていることを、すぐに気づかれてしまうに違い ない。 自惚れるつもりはないが、あいつはオレのことには、とても敏感で、大事にしすぎる。 そんなことに気づかれでもしたら、仕事もなにも、放って、松本まで来てしまうに違いな いのだ。 実を言うと、あいつは一度、そんなことを簡単にやってのけたことがある。 その時は、来てくれて本当に嬉しかったけど、兄の照弘さんと直江の電話の様子をチラッ と聞いたときに、照弘さんや回りの人に本当に申し訳ないことをしてしまったなと思った のだ。 ――― 仕事中のあいつに電話をかけたことは、してはいけない ――― それが、オレの中の鉄則となった。 だって、あいつが我慢できないなら、オレがするしかないじゃないか。 それ以来、あいつが仕事中の時は、必要以上に自制することを強いられるようになったのだ。 ・・・そんな風に、我慢に我慢を重ねて、あいつに飢えていたオレが、突然のあいつの声に、 びっくりして固まっちまったのも、無理はない・・・と、思う。 「もう、仕事は終ったのか?」 『ええ。ようやく終りました。あなたに会えない一ヶ月は、とても長かったですよ。 高耶さん』 「ばぁか。・・・で?いつから休みなんだ?」 『明日から3日間、休みをもらいましたよ』 明日は、土曜日である。 ちょうどオレの休みとも重なるようだ。 「じゃあ、さ。明後日・・・、会えないか?」 珍しくオレから誘ってみたのだが・・・、 『明後日・・・?』 少しだけ、不機嫌そうなあいつの声が返ってきた。 ・・・もしかして、都合が悪かったのかな? それとも、無理な仕事をして、疲れているんだろうか? だったら・・・。 「あ・・・、都合悪かったか?だったらいいや。空いてたら、どうかなって思っただけだか ら・・・」 『・・・そうじゃない。高耶さん。』 少し苛立ったような声音。 オレ、何かこいつを怒らせるようなこと、言ったかな? そして、その疑問はすぐに解決された。 『明後日に会いたい、だなんて・・・。「すぐに会いたい」とは言ってくれないんですか?』 拗ねているような男の言葉に、思わず、オレは目を見張った。 『私はすぐにでも、あなたに会いたい。あなたを抱きしめたい。・・・あなたは、違うのです か?』 詰め寄るように尋ねてくる。 それは、とんでもない勘違いだ。 慌ててベッドから飛び起きて、受話器を抱きしめるように、両手で持ちなおす。 「直江・・・っ、オレは・・・」 「あなたに会える日を、毎日のように焦がれていたのは、私だけだったんでしょうか?」 素直に感情を表してくる男に、軽い眩暈を覚えながら、つぶやいた。 「んなわけあるかよ。オレだって・・・」 仕事で疲れてるだろうから、わざと明日じゃなくて、明後日、と言ったのだ。 直江が疲れているんじゃなければ、オレは・・・。 『オレだって・・・?』 ――――― オレだって、 「・・・すぐにでも、おまえに会いたい」 普段、絶対言えないような言葉が、素直に口から零れた。 ・・・電話って不思議だ。 それとも、オレをこんな風にさせるのって、直江だからだろうか? 受話器の向こうの直江が、優しく微笑んだような気がして、ドキリ、とする。 『・・・魔法をかけてあげましょうか?』 直江が、内緒話をするかのように小声で囁いてきた。 「え・・・?」 この男は、一体、何をするつもりなのだろう? こういう風に言うということは、何かとんでもないことを企んでいるに違い ないのだ。 不安になりながら、そして、ちょっぴり期待しながら、男の答えを待つ。 すると・・・。 『実は、今、あなたのアパートの前にいるんです』 「・・・・・・はぁっ!?」 直江の言葉を理解するのに、たっぷり5秒はかかった。 (マジかよっ!?) 慌ててベッドから飛び降りて、部屋の窓をガラリと開けて見下ろすと・・・。 「こんばんは、高耶さん」 機械越しではなく、直接耳に響く、低い声。 見なれたWINDOMがアパートのそばに停車して、車に寄りかかりながら、 ずっと求めつづけていた男が、微笑みながら、見上げている。 ――――― 嘘だろ・・・!? オレの心臓の音は最高潮に達して・・・、 「・・・どうしておまえがここにいるんだよ!!!」 思わず怒鳴りつけて、受話器をベッドに放り投げると、オレは、勢いよく部屋から 飛び出したのだった。                      〜Telephone(後編) へつづく〜 コメント:なな 翔華さん。先日は、素敵なリクエスト作品をありがとうございました! お礼にもなってないかも・・・な、作品ですが、1ヶ月会えなかった二人の 電話ネタ返しです♪(//^▽^//) 気に入っていただけたら幸いです。。。(*>。<*) それでは、次回で完結で〜す!(//>O<//)ノ コメント:翔華  ななさん、こんな素敵な小説ありがとうです(>_<)  あんな私の小説ごときに本当にありがとうございます♪  続きも楽しみにさせていただいているので、がんばってくださいvvv  


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