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多属性効用理論
- その10 -
誰かが緊急停止ボタンを押してくれたらしい。
大きくカーブしているホームに入ってくる電車の操縦者が高耶を見つけるより早く、電車はブレーキをかけ始める。だがそれが、この巨体を止めるための大きなブレーキ音を生み出し、ホームに緊張感を走らせる。遠くにいた者も、一体何事かと、顔をめぐらせ、音の発生源を捜す。
駅の一番端のここは、線路は一本しかない。そのため、隣の線路に逃げるということが出来ない。
高耶は目には見えないものの、明らかに迫り来る大きな鉄の塊の存在感をヒシヒシと感じながら、急いであたりを見回した。
時間にしてほんの数秒だっただろう。
だがまるで何分にも感じながら、高耶は視界の端に見つけたホームの下の人が一人ほど入れる小さな空間へと、その体を滑り込ませた。
高耶の体が線路の上から消えるか消えないかというタイミングに合わせて、まるで見ている人間の悲鳴を代弁したかのような電車のブレーキ音が高耶の体をかき消したのだった。
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