そのバイクは決まって同じ時間に、同じ場所に現れた。 ただし、毎日ではない。 3日、4日と続けて現れたかと思うとパタリと現れなくなり、一週間以上も経ってからまた何食わぬ顔で現れる。 まさに、自由気ままな猫のようなバイクだった。 そんなバイクの存在に気が付き、さらに気が付いてみれば、自分もまた、いつも同じ場所を同じ時間に通っていた。 夜中をとうに越し、すでに人が眠りについた時刻。 そんな時刻のせいで点滅へと切り替わった信号がいつものように黄色く輝いている交差点に男の車が通りかかった時、右端から測ったように一台のバイクが現れた。 来た、と男は口元を僅かに綻ばせる。 闇を切り抜いてきたような漆黒のマシーン。 チラリとこちらを振り返り、それから合図でもするようにテールランプが三度、瞬く。 灯りも少ない郊外の道路で、しかも相手はフルヘルメットをかぶっているにも拘らず、彼がからかうように笑っているのが分かった。 誘われている。 いつもそう感じる魅惑的な空気。 それに応えるように、男もまた、フロントライトを三度瞬かせた。 この先のカーブを曲がるまで、車とバイク、二台連なるようにして走る。 付かず離れずの距離を保ち、男はバイクの鮮やかな動きを追う。 そして、カーブに差し掛かり、この先が九十九折になっているそんな急所の入口で。 相手はいつでも無謀なまでにアクセルを吹かし、命知らずな加速をする。 それに釣られるように男もアクセルを踏み込むが、着いて行けたためしがなかった。 絶対にこちらの方が排気量も大きいのに、掠りそうになったことさえない。 男の方の運転技術にしても、伊達にこんな時刻に車を流しているだけのことはある。 それでもいつもそのバイクは男の先を行き、夜のしじまを赤いランプで切り裂いて、姿を闇に溶かしてしまうのだ。 不定期なほんの一時だけの時間の共有。 彼に惹かれるのに、それ以上のものなど何一つ必要なかった。 -fin-
場面小説第二弾。 これもまたmade in Singapore 読んだ友人の感想は「始まってるよぉ」でした。 いかがでしょう? 会話一つ、台詞一つありません。 どころか名前も出てこずじまい。 でも楽しかったので、これもまた一興♪ Back |
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