(カラスが問題なんだ・・・) 直江太郎は、まきを割りながら、思考を巡らし続けていました。 鬼退治に行くのは、この家を出て行くためなのですから、 何とかしてあの高坂ばあさんの目をかいくぐって行かなくてはなりません。 そこで問題になるのが、“カラス”の存在なのです。 家の外に出るときは必ず、見張りとばかりについてくるのですから、厄介な事この上ありません。 (やっぱ、カラスも鳥目なのだろうから夜に出るべきだろうな。) そう思うのですが、昼間になって見つかってしまうのでは同じです。 せめて、高坂ばあさんの手の届かない隣国までは見つかるわけにはいきません。 この国にいるうちは自分の居場所を高坂ばあさんに知らされては困るのです。 (追い払っても、見つかってる事には変わりないし・・・なら、飼いならすしか。 ・・・飼い、ならす?) そこまで考えて、手が止まります。 (飼いならす・・・) 仕事の中断をカラスに見咎められて、せかされるように働き出した直江太郎の顔には、 笑みが浮かんでいたのでした。 山の木々さえもくしゃみするのを遠慮しそうなほど静かな夜に、 直江太郎はひっそりと家を抜け出しました。 出てくるときに盗ってきた高坂ばあさん特製のキビ団子入りの袋を腰にぶら下げてます。 足音を忍ばせて、洗濯をする川まで一気に下り、直江太郎は後ろを振り返りました。 どうやら、誰も付いて来てはいないようです。 ほっと、ため息を一つ。 空を見上げても、うるさいカラスはなく、雲ひとつない夜空には月と星がいるだけ。 「よしっ。」 小さく呟くと、直江太郎は下流に向かって歩き始めました。 「譲さん、譲さん。おられますか?」 夜が明けるまであと一刻という頃、川辺の大きな屋敷の後ろ。 直江太郎は、中へと声を掛けていました。 「譲さん?」 しばらくそうやって声を掛けていると、物音がして、白い小さな犬が中から現われました。 「あなたが、僕を呼んでたの?」 「はい。こんな朝早くにすみません。」 「ううん、それはいいんだけど。どうして、僕の言葉が分かるの?」 「それは私にも分かりません。でも、物心がついた頃には動物達の言葉が分かっていたんです。 あっ、申し遅れました。私は直江た・・・直江、というものです。 あなたのお力を貸していただけないでしょうか?」 低い子犬の視線の高さに目を合わせ、直江(本人の意思を尊重して、直江太郎、改め、直江とします) は小さく頭を下げます。 「力?」 「えぇ、実は・・・」 手短に話し終わると、譲は楽しそうに笑って言いました。 「僕で出来る事ならさせてもらいますよ。 ようは、そのカラスさん達と仲良くなればいいんでしょう? 僕一度、あのカラスさん達とおしゃべりしてみたかったんだ。」 実は譲はここらへんでは有名な犬で、どのような動物もなつかせる事が出来るという、もっぱらなうわさなのです。 「ありがとうございます。助かります。」 「ううん、僕も鬼には会いに行かなくちゃいけなかったから。」 少し寂しそうに呟く譲を、直江は不思議そうに覗き込みましたが、何も言わずに、 腰からキビ団子を取り出して譲の前に置きました。 「譲さん、これをどうぞ。ほんのお礼代わりです。」 「・・・キビ団子?ありがとう!」 そう言って、中ぐらいの大きさのを一つ前足でかき寄せ、ぺロッと口に入れました。 ところが、おいしそうに二、三度噛んで飲み込んだ途端、譲は苦しそうに倒れこんでしまったのです。 「譲さん?!」 やはり、あんな奴が作った物を食べさせたのがいけなかったのか、とうろたえる直江の前で、 譲は体を丸め、必死に何かを堪えるように胸元をかきむしってます。 「大丈夫ですか?」 手を伸ばし、背を撫でようとした、その時、譲の体が光を放ち始めました。 その光は次第に大きくなっていって、臨界点まで達したかと思うと、 とうとうはじけ、その中から一人の男の子が現われたから驚きです。 「・・・譲さんですか?」 呆然と聞く直江の意図が分からなくて、譲は首を傾げました。 今まで、話をしていたのだから、今更そんな事を言うのはおかしいと思ったのです。 「そうだけど・・・どうして?」 「手を、見てみてください。」 「手?」 言われるがままに手を見て、譲は息を呑みました。 「人、の手?」 「手だけではありません。完全に人ですよ。」 言われて、慌てて自分の体を見返した譲は驚きで言葉を無くしました。 「・・・人・・・?」 ぽつんと落ちた言葉は直江の耳に届く前に消えましたが、その驚きは伝わったようです。 「譲さん、すみません。変なものを食べさせたから・・・」 「えっ?謝んないでいいですよ。僕は人間になれて嬉しいんだから。」 「ですが・・・」 「僕には、人間になってお友達になりたい人がいるんだ。だから、嬉しいんだよ。」 幸せそうに呟く譲を見て、直江は謝罪を言葉にするのをようやっとやめたのでした。 しばらく、幸せそうに自分の手を見つめていた譲はやがて直江を見上げ、 「じゃぁ、行こっか。」 と、笑いかけたのでした。はい、第二幕です。どうでしたでしょうか?
少しでもおもしろいと思っていただけたら嬉しいです♪
次は千秋と綾子が登場するシーンです。
一体どうなる事やら・・・
この珍道中はもうしばらく続きそうです。
第三幕に続く
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