Tell me why?

 

「最近直江の様子がおかしいんだ」
千秋を真正面に見据えて高耶は言った。
「ふ〜ん」
返される返事は素っ気ない。
「んで、なんでおまえがここにいて、なんでそれを俺様に言うわけ?」
ここは千秋のマンションの一室。つまりは高耶が千秋の所へ押し掛けたのだ。
「千秋なら直江と付き合い長いだろ?」
「だったら綾子に言え!綾子に!俺様は忙しーのよ」
そう言って、千秋は手元のファッション誌をめくった。
「ねーさんに言ったらさ、『嫌なことは忘れて、パーッと飲みましょ』とか言いそうじゃん」
超酒好きの綾子のことだ、十分に考えられる。そのまま飲み屋に直行か、はたまた買い出しに出掛けるか。そして酔った後はもうまともに話せる状態ではなくなってしまう。
直江に連れられて千秋のマンションに初めて来た日、高耶は綾子の酒癖の悪さを知ったのだ。
「…そりゃそうだ」
額に手をあてて、千秋はうなった。どうやら相手をさせられるのは自分しかいないらしい。
「分かったよ。相談に乗ってやりゃいいんだろ?」
「ありがとう千秋!」
何だかんだ言って、結局は助けに乗ってしまう。千秋修平、彼は自分では否定をしてはいるが、お人好しなのであった。
「で、何処がどうおかしいんだ?」
まずは詳しく話を聞かなければ何も出来ない。
「最近直江が殆ど逢ってくれないんだ。電話かけても用事があるって。もしかして、他に女出来ちまったんじゃ…」
(ぜってーねーな、そりゃ)
女癖は確かに悪かった。特定の相手を作らずに、ふらふらと何人もの女と遊んでいた。だがそれも昔のことだ。高耶と出逢って、付き合うようになってからは直江は一切遊ばなくなった。
なにしろ、その変化にこちらも驚かされた位なのだから。
(あいつって、本命には尽くすタイプだったんだな…)
どちらかというと尽くされるタイプであったし、冷静さを貼り付けていたので知らなかった。今は随分と人間らしくなったと思う。
だからこそ、千秋には直江が隠れてそんなことをしているとは思えない。しているとしても、それはきっと高耶に関係することだろうと安易に想像が付く。
時が来ればいずれは解決することだろう。
しかし。
(疑心暗鬼ってのは厄介だからなぁ〜)
このまま高耶を放っておくのもマズイ。それに、また駆け込まれても困る。
「そんなに心配なら、後つけてでも確かめりゃいいじゃねーか」
「それじゃあストーカーだろ」
「直江って、女癖相当悪かったんだぜ?俺様、どうなっても知らねーからな〜」
「!!!」
高耶の顔が一気に青ざめる。慌てて支度をすると、高耶は即座に千秋の部屋を飛び出していった。
嵐が去った後には千秋だけが残される。
「ったく、世話のやける奴らだな…」
髪を掻き上げて千秋は呟く。そしてまた、雑誌の方へと目を向けた。

 

 

(直江っ!!)
直江の務める会社へと、高耶は急いだ。もうすぐ直江の仕事が終わる時間だろう。
真実を確かめなければならない。
でも。
(もし直江が女の人と付き合うって言ったら、オレはどうすればいいんだろう…)
自分は男だから。普通ならばこっちの方がおかしいのだ。そう考えると、胸が痛んだ。
直江に逢いたい。とにかく逢って話がしたかった。

会社の入口には、ウィンダムが横付けされてあった。紛れもなくそれは直江の車だ。
そう思って近づこうとした高耶の足がピタリと止まった。
車の傍に直江がいる。そしてもう一人、隣りには綺麗な女性。
目の前が一気に暗くなったのを感じた。
「高耶さん?」
呆然と突っ立っている高耶を見つけたのか、不意に直江が名を呼ぶ声が聞こえた。
「高耶さん!」
「来るなっ!!」
こちらへ来ようとする直江を制して、高耶は走り去った。溢れた涙を、拭うこともせず。

 

 

自分がバカだったんだ。想いが通じたと思って安心しきって。
ほら、現に直江は女の人と一緒にいた。自分とは所詮遊びだったのだ。
涙が流れた。止まらなかった。
アパートの自室で、膝を抱えて高耶は蹲っていた。夕食時なのに何もしたく無ければ、何も食べたくない。
どうでも良かった。

ピンポーン

と、来客を告げるチャイムが鳴った。だが、それを無視して高耶はただ座っていた。
数回チャイムが鳴った後、ガチャリという音とともに扉が開いた。息を切らせた直江が飛び込んでくる。
そう言えば、合い鍵を渡していたのだった。自分も、直江のマンションの鍵を持っている。
「高耶さんっ!!大丈夫ですか!?」
蹲っていた高耶を見て、病気かと思ったのだろうか、心配そうに声を掛けてくる。
「……」
「高耶さん…?ど・どうしたんですかっ…?」
涙を零しながら自分を見つめる目が痛い。自分は何か高耶を悲しませることをしただろうかと、考える。
「何があなたを苦しめているの?」
穏やかな口調で問いかけるが、返事はない。
しばしの間、沈黙が部屋を支配した。
「おまえは…」
唐突に高耶が口を開く。
「もうオレのことはいらなくなったんだろう…?」
「そんな訳ありません!!どうしてそんなことを…っ」
「女の人と一緒にいた。隠さなくてもいい、あの人と付き合っているんだろう?」
綺麗な人だった。叶う訳がない。
「違います」
キッパリと直江は言い放った。
「嘘だ」
「嘘じゃありません」
「だったら何で一緒にいた?何でも無いなら言えるだろ?」
「それは…」
高耶の質問に、直江は躊躇いを見せた。それがいっそう怪しく見せる。
「ほら、やっぱり嘘だ」
背中を直江に向けて高耶は再び蹲った。何も聞きたくないというように、直江を拒絶している。
「分かりました」
意を決したように、直江は立ち上がった。
出ていくのだと、咄嗟にそう思った。そしてあの女の人の所へ行くのだろうと。絶望的な気持ちで、直江が出ていくのを待った。
しかし、直江はそうはしなかった。
「台所をお借りします」
そう言い残して、キッチンへと歩いていってしまった。

しばらくガチャガチャと調理器具を扱う音が聞こえていた。
更に時間が経つと、いい匂いが辺りに漂った。
「出来ました」
真っ暗だった部屋に電気が点けられる。いきなり明るくなったので、慣れるまで目がチカチカした。
直江はキッチンと居間を行ったり来たりして、料理を運んでいた。
「これ…おまえが作ったのか…?」
目の前にはホカホカの料理が並べられていた。炊きたての御飯に、メインのハンバーグ、具沢山のみそ汁。
「ええ」
「おまえ…料理はさっぱりだったんじゃ…」
目玉焼きさえ焦がしてしまうような腕だったのに。一体何故…
「練習したんです。週に何回か、友人の奥さんに教わって」
「じゃあ…あの女の人は…」
「奥村という私の友人の奥さんです。料理教室の先生をなさっていたので、特別に終わった後に教わっていたんです。流石に女性に混ざって習うというわけにはいきませんでしたから」
「…ごめん」
全ては誤解だったらしい。見たことを確かめもせずにそのまま受け取ってしまった自分が間違っていた。
すまないという気持ちが溢れだす。
「いいんですよ。それより、食べていただけませんか。ハンバーグ、ちょっと焦がしてしまったんですけどね」
苦笑しながら直江は言った。
何も言わず許してくれた事がとても嬉しかった。言われるままにハンバーグを一切れ口に含んだ。じわりと肉の旨みが口中に染み渡っていく。
「美味しい…」
「それは良かった」
心底嬉しそうな顔をして、直江もまた料理を食べ始めた。
「いつもあなたにご馳走になってばかりでしたからね。私もあなたにお返しをしたかったんです。驚かそうと内緒にしていたのがあなたを不安にさせたようで…本当にすみませんでした」
「ううん。オレの方こそ、疑ってごめん」
ポタリと涙が零れた。
「高耶さん!?」
「うれし涙だ」
そう言って、今日初めて高耶は笑顔を見せた。

「ありがとう直江」

ふたりで食べた夕食は、いつもと違った味がした。
それは直江の気持ちが沢山つまっていて、とても美味しかった。

「今度はオレの番だな」
「期待していますよ」

その後夕食の間、笑顔が絶えることは無かった。

 

END



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素敵な小説をありがとうございますvv
料理を習う直江・・・いいですよねぇ。
気になるのは彼がつけていたエプロンのが柄ですね♪
と、まぁ、冗談は置いときまして、もう、甘々な二人にホクホクです。新刊ショックもなんのその♪
本当にありがとうございましたvv
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