メイシャン様から強奪いたしました!!



迷子になった二人



 「はぁ・・・」高耶は先ほどから何度目かの溜息をついた。
 2時間も道なき道を歩いてクタクタだ。
 一体、何故、こんなことになってしまったのか・・・


 

 高耶と直江は二人だけの結婚式を終え、今、新婚旅行に南のリゾート地に来ていた。
 小さな島が点在するここは、普段は大きめの島のホテルをメインに営業しているが、台風の無いこの時期は、周辺の小島のコテージを開け、1島に1組の客という贅沢なやり方を展開し、世界中の新婚カップルから人気を得ていた。

 直江は、どういったコネを使ったのか、普段なら何年も先まで予約が入っているはずの小島のコテージをキープし、急だったはずの二人だけの結婚式からそのまま空港に直行し出発した。荷物もパスポートもすでに用意してあった。つまり、まったく計画的だったのだ。結婚式が。
 高耶はうれしいながらも呆れも果ても尽き果てるといった心境になりつつ、直江の計画通りに、この南の島に連れてこられた、という次第だった。

 その嬉しいはずの新婚旅行でなぜ溜息なのかというと・・・



 コテージから海岸まではすぐだ。
 高耶は日本とは色からして違う海に歓声を上げ、荷物の整理もそこそこに、海岸へ向かった。
 直江はそんな高耶をこれ以上ないほど優しい瞳で見つめ、その後を追った。

 誰もいない、二人きり、という状況が高耶を解放的な気分にさせ、日本では決してしないような、ベタベタラブラブ新婚カップルぶりを見せた。
 波打ち際で追いかけあい、海水を掛け合い、波に濡れた服をそのままに抱き合ってキスをした。
 日差しが強いから・・・などと直江に誘われた椰子の木の下で、肌を合わせ、直江の愛撫に合わせて甘い声を上げた。

 椰子の木の下で抱きあった熱を冷まそうと、二人で散歩をすることにした。小さい島だから一周ぐらいできるんじゃないか?などと言いながら。

 オレンジ色の夕日に周りを彩られる中、南の海での新婚旅行のお約束、「夕日の中でキス」を堪能しながらの道程だった。

 そこまでは非常によかったのだが・・・



 「はぁ・・・」高耶は先ほどから何度目かの溜息をついた。
 かなりの時間、道なき道を歩いてクタクタだ。
 「直江。お前、方向解ってるのか?」

 そう。「夕日の中のキス」だけで済むはずがなく、そのまま、もう一度、事に及んでしまったのだ。その間に夕日は落ち、あたりは、暗闇。
 コテージへの道が、さっぱりわからなくなってしまった、というわけだ。
 それでも、小さい島なんだから・・・などと勘を頼りに進み始めたのが余計悪かった。
 思い切り、道を見失った。明るいところで見れば、おそらく大して広くも無いのだろうが、森の中に入ってしまったのだ。
 寒くないのだけが救い・・・ではあったが・・・

 「あなたこそ、解っていて歩いているのではないのですか?」
 「バカ。お前がわからないのに、俺だって知るかよ?」
 さっきから、一体、何時間歩いているのか?体内時計の感覚からすると、2時間は確実に歩いている。
 「疲れた・・・。もう〜お前のせいだからな!」
 「なぜ?私だけのせいなんです?あなただって、もっと、もっとって言っていたじゃ・・・痛ッ」
 直江が全部言い終わる前に高耶がグーで殴った。
 「そういうことを言うんじゃねぇ!」
 「誰も聞いていませんよ。」
 「俺が聞いてる」
 「はぁ・・・」
 普段なら甘いカンジに流れていくような会話も、疲れと、帰れないかも、という不安で今ひとつ盛り上がらない。
 「はぁ・・・」再び、溜息。
 「もう、お前の言うこときいて、こんなとこまで来て。迷子かよ。新婚旅行なんて来るんじゃなかった。」
 高耶がはっと失言だったと気づいたときには、もう遅かった。
 ずっと隣を歩いていた直江が一歩前に出ると、そのまま、高耶に背中を向けたまま距離を開けて歩き出してしまった。

 ほんとは来るんじゃなかったなんて思ってない、と言いたいが、直江の背中が拒絶しているようで声を掛けられない。
 仕方なく、黙って直江の後ろをついて歩いた。

 いつまで待っても直江は振り向かない。そろそろ声を掛けてくれてもいいのに。
 (振り向け、振り向け、振り向けってば!)
 思念波が届いていないはずは無いのに、直江は振り向かない。
 高耶はさっきの発言を思い切り後悔していた。

 ふいに直江が立ち止まった。
 「ぶっ!」直江の背中に高耶がぶつかった。
 「高耶さん、少し休みましょう。」
 振り返りもせず、言った。

 木々の間から見える星の乏しい明かりの下、殆ど手探りでそこら辺の葉っぱを集めて、座布団代わりにして座った。
 直江が右、高耶が左に二人で並んで座ったけれど、どちらも口を開かなかった。
 高耶が体の脇についた右手の小指に何かが当たった。見てみると、直江の左手の小指。
 ただ、それだけ。
 握ってくるでもなく、ただ、触れさせていた。
 それだけのことに、泣きたくなる。

 「ごめん・・・直江。来なきゃ良かったなんて、思ってない。この状況はちょっと困ってるけど、朝になれば明るくなるし・・・昼間、すごく楽しかった。来て良かった。」
 直江は返事をしない。
 高耶はめげそうになったが、せっかくの新婚旅行にケンカしたままではいたくない。
 「なあ、直江。お前とこんなに歩いたのって何十年ぶりだろう?最近の何年かは、いつも車だったろ?」
 直江はまだ返事をしない。
 「直江、まだ怒ってる?ホント、ごめん。機嫌なおせ・・・んっ」
 直江は黙って高耶の唇を塞いだ。自分の唇で。

 唇だけを触れ合わせたキス。
 他に触れ合っているところは、小指の爪だけ。

 二人とも、もう片方の腕を上げて、相手を抱きしめて、もっと深いキスがしたかったが、我慢していた。そんなキスはいつでも出来る。でも、こんなキスは、きっと今しか出来ない。

 触れ合っている唇から直江が舌を少しだけ出して高耶の唇を舐める。高耶もお返し、というように、同じようにする。舌先をチョン、と触れ合わせる。
 何度目かに舌先が触れたとき、どちらからとも無く、クスクスと笑い出した。
 少しだけ顔を離し、お互いの目を覗き込むようにする。
 「すみません。高耶さん。大人げなかったですね。」
 「いいよ。もう。俺も言い過ぎたよ。」
 「いえ、私が悪かったんです。」
 「いや、俺が悪かったよ。」
 「いえ、私が。」
 「いや、俺が。」
 プッと二人同時に吹き出し、笑い出した。
 「「あはははははは!」」
 「なんか、俺たち、マンガみてえ!」
 「そうですね。それでも良いですよ。あなたとなら。」

 「行こうか?」
 「はい。高耶さん。」
 二人同時に立ち上がり、手を繋いで歩き出す。
 高耶は、ああ『御意』って言わなくなったんだな・・・と思っていた。
 主人と家臣ではなく、これからは、人生の伴侶として生きていく。
 これから、日々の生活の中で、また些細なことでケンカになることもあるだろう。そんなときは、今日のキスを思い出そう。小指と唇だけで仲直りした、特別なキスを。

 それからまた1時間ほど歩いて・・・木々が途切れたところに出た。コテージの裏側だった。本当に島を一周して戻ってきたらしい。
 二人ともシャワーを浴びるのが精一杯で、疲れきってベッドに沈んで爆睡した。
 夢の中で二人は、それでも良い・・・と思った。
 新婚旅行はまだ1日目。二人きりで過ごせる時間はたっぷりあるのだから・・・・・




メイシャン様のサイトでミラパロのお題募集のお知らせがありまして、
それに悪乗りして、『迷子』という題名なんかがいいなぁ〜と
零したらこんなに素敵なものを書いてくださいました。
しかも、うちに上げてもいいよチックなことを言ってくださったので、
強奪した上に、あげさせていただきました(笑)
このお話は、メイシャン様の書かれている『MARIA』というお話の続きでして、
もう、めちゃくちゃ素敵なお話の続きなのです。
もう、ぜひぜひ、覗きにいかれてください!
メイシャン様、本当にありがとうございました!


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