君を、思ひて






源氏物語


〜炎ミラ編〜


《メインキャスト》
光源氏:直江信綱
紫の上:仰木高耶
葵 上:門脇綾子
頭の中将:千秋修平



いずれの御時にか・・・・・・





「源氏の君!」
強い口調で名前を呼ばれて、源氏の君、こと直江はイヤイヤ振り返った。
「なんだ?」
「また、来てくださいますよね?」
衣一つまともに羽織らず、髪も乱したままで局を後にしようとする直江に女は縋りつく。名のある貴族の娘とは思えないその様子に、直江はさらにげんなりして、溜息をついた。
女は飾ることをやめても美しい人もいるが、この女性の場合、垣間見だけが一杯いっぱいな感じだ。一言で言えば、ハズレとしか言いようがない。
だが、そんなことを面と向かって言うようでは、たらし失格だとばかりに直江はパラリと扇を開くと、にこりと笑みを浮かべた。
「姫、どうか、私を困らせないでください。私としましても、あなたの所へいつでも訪れたいのですから」
もう幾ばくもしたら沈みそうな月光の作り出す明りが効果的に直江の表情を演出する。
その美貌に女の手が思わず緩んだ隙に、直江はごめんっとすだれをくぐり、外に出た。
早くしなかったら、この家の主が戻ってくるかもしれない。主は主で外の女のところへと出かけているのだが、それでもさすがに正妻のところへ別の男が潜り込んでいては、こちらの分が悪すぎる。
買収しておいた女房の案内で裏手の門まで戻った直江は、ほんの少しの迷いもなく待たせておいた牛車に乗り込んだのだった。



「あら、お早いお帰りね」
家に着くと、すでに起きていたらしい綾子が、からかうように声をかけてくる。
それに直江は顔を顰めた。
「起きていたのか」
「悪い?」
悪びれもなくそう言い切って胸を張って見せた綾子は、通名葵の上としてしられている、直江の正妻だった。正妻とは言うものの、もっとも、名前ばかりの関係だが。
大体が、貴族の娘とも思えない振る舞いに、その口調。
御簾の向こうに入ってしまえば、何重にも猫をかぶり最高の貴族の姫として振舞うが、実体はとてもじゃないが、外聞が悪すぎて漏らせない。
そんな妹の素性を知っていた綾子の兄で直江の親友でもある千秋が、直江に綾子を押し付けたのだ。これでは、いくら風評がよくとも嫁いだ先から追い出されるのが関の山だと思ったらしい。
最も実際会ってみたら、夫婦としての契が本当に出来るかどうかは置いておいて、さばさばしたその性格は直江にとっても付き合いやすい類だった。結局、一度も床を一緒にすることなく、三晩すごし二人して3日夜の餅を食べた、というわけだ。
「悪い、悪くないじゃないだろう。だいたい、女が男の家に泊まりに来てどうする」
この時代、通い婚が普通だ。身分ある女性は自分から動いたりしない。
だが、直江のそんな呆れた声にも綾子はふ〜んと胸を張って見せた。
「いいの?そんなこと言って。誰が紫のこと見ててあげたと思ってるの?」
それを言われると、言い返せない。

紫、とは。
直江が数年前に貰ってきた子供だ。
偶然垣間見たその愛くるしさに半ば脅すようにして連れ帰ってきた。当時、ただ一人自分の胸を焦がしていた女性。その女性に面影が似ていて、どうしても田舎になど捨て置けなかった。
その面影から決して身分の賎しいものではないだろうと思ったのだが、実際調べてみれば、自分の胸を焦がしていた父親の妻である女性の縁続き。だからこそ、面影が似ていたのだ。

ならなぜ、こんな寂れた田舎に。

そう思い、さらに調べてみれば、子供は女の子ではなく、男の子だった。やんごとなき男に生まされた男子であるが故に、内裏を騒がせないように内密に田舎で女の子として育てられていたのだ。
男の子だと知っても、その子供に対する直江の思いは不思議と変わらず、結局こんな田舎で過ごさせるよりは手元にと。身分に物を言わせ、連れ帰ってきた。

普段は、娘として暮らすことを余儀なくされているその子供に“高耶”という男性名をつけたのは、直江だ。
二人っきりのときは、これで呼びますね。と、名付けた。二人の間だけの名前に、高耶はとっても可愛く笑い、嬉しそうに礼を述べてくれた。
それが、二年程前。

あの時に、二人の間にある輪が軋み始めたのだ。

それまでも毎夜のように女性の下へ通っていた直江だが、そのころを境にさらに女遊びがひどくなった。
自分でもその理由は分かっている。
高耶のほうへと向けてしまいそうになる、爛れた思いを他所で発散させなくては、同じ屋根の下などいられなかいから。
次第に子供特有の空気を大人のしなやかなものへと変えていく高耶。
神経が焼ききれそうだった。

「もう。そんなに紫のことが好きなら、抱いちゃえばいいのに」
怖い顔で黙り込んだ直江に、全てを知っている綾子は、溜息をつき、ポンっと肩を叩いた。
「そんな簡単にいかないさ」
簡単なはずがない。
自嘲気味にそう呟く直江に綾子は肩を竦め、身を翻した。
「紫は、いつもの部屋でまだ寝ているわ。行ってあげたら?このところ、いつもいないから寂しがっているわよ」



続く

というわけで、源氏物語。
本当に好きな人に手を出せず、
そのさみしさから他の女に手を出す源氏。
まさに、直江!!
って、思うのは私だけですかねぇ。
まぁ、ただの女ったらしかもしれませんが(笑)
あんまり長くはないですが、
ごゆるりとお付き合いくださいませ〜。




書室 / その弐




十五夜
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