7月23日の朝。
仰木家の寝室の窓はカーテンと共に半分ほど開けられ、明るい日光とまだどこか涼しい風を通していた。
その部屋のベッドの真ん中で、上掛けの綿布を足元でくちゃくちゃにして、大の字で寝ているのは高耶だ。すでに起き出してそばにいない直江を探しているのか、時々両手がぱたりぱたりとシーツの上を泳ぐのが可愛らしい。
しばらくそうして、夢と現実の狭間でまどろんでいた高耶だが、瞼がピクリ、と動いた後に、鼻がぴくぴくと動いた。香ばしい香りが漂ってくる。その匂いに完全に覚醒したのか、高耶は勢いよくガバッと起き上がった。起き上がった勢いのままにベッドに仁王立ちして、明るくなっている窓を見て、それからわずかに開けられている部屋の扉を振り返る。
「たんじょうびだ!」
そう今日は、ずっとずっと待っていた誕生日だ。
昨夜寝る前に、次に目が覚めて、周りが明るくなっていれば、高耶さんの誕生日ですね、と直江に言われた。
「しちがつ の にじゅうさんにちだぞ!」
まるでベッドの周りに誰かがいるかのように、高耶はそう大きな声で宣言して、元気よく飛び降りる。そして、直江と千秋がいるだろうリビングに通じる扉を元気よく開けた。
「おー、おー、元気いいねぇ」
高耶が現れるなり、一気に明るくなった部屋の空気に千秋が笑う。そんな千秋と朝食の準備をしている直江に、高耶はニパッとする。
「おはよう!たんじょうびだ!!オレももう、5さいだ!」
笑いながら一息に言いたい事を言い終えてから、腰に手をやり、小さい身体を精一杯そらして見せた。そうして、大きくなったことを強調しているさまは、二人にとっては可愛い以外の何物でもない。逆にその小ささに二人がノックアウトされているとは、本人は思いもよらないに違いない。
そんな高耶に千秋はニヤニヤしながら、近づくと、ぽんと頭の上に手を置いた。
「まだまだ、ちっこいけどなぁ」
「なにをぉ!!」
ふむふむと、頭を勢いよくなでながら言う千秋に、高耶は上を睨んで、食って掛かる。
「こんなに、おおきいぞ!!」
言うなり、ふみっと千秋の足を踏んづけて、そのまま千秋によじ登り始めた。
最近、本人の言うとおりに確かに成長している高耶は、立っている千秋に登ることを覚えたのだ。そしてそのまま千秋の頭を叩く。
「ほら みろ!」
オレだって千秋の頭ぐらい触れると、勢いよく千秋の背中から飛び降りて再び胸を張った高耶に、千秋は参ったと楽しげに笑った。
「分かった分かった。確かに大きくなった!うん」
まだ、どこか茶化し調子な千秋に高耶は多少不満げだが、「高耶」と、名前を呼ばれて、首をかしげた。そんな高耶の前に千秋はしゃがみ目線を合わせる。
「五歳の誕生日、おめでとうな」
いいながらくしゃくしゃと頭を撫でられて、高耶は嬉しそうに笑った。
「うん!」
撫でてくる手に両手でひとしきりじゃれ付いて、それから直江のほうへと駆け寄った。勢いよく飛び込んできた高耶を直江は、そのまま受け止めて、抱きしめる。きゅっと軽く腕に力を入れてからしゃがむと、おでことおでこを合わせた。それに高耶が嬉しそうに首を縮こまらせる。
「高耶さん、お誕生日おめでとうございます。もう、五歳ですね」
両手に頬を添えて、優しく告げられた言葉に高耶の顔が無邪気に綻ぶ。その顔を千秋はおーおー、と苦笑交じりに見る。
高耶を二人で引き取ろうと決めたとき、子供には父親と母親がいるように、二人で"両親"と言えるようにしようと決めた。それから同じだけの時間を同じ屋根の下で過ごしてきたが、高耶の態度は、直江に対するものと自分に対するものとで明らかに異なる。それが嫌だとか、直江が羨ましいだとか言うわけではないけれど、それでも時折、本当に時折だが、直江のように扱われて見たいものだと思わないでもない。多少、不平等かなと思う。
高耶をからかったりという己の所業を棚に上げて、一人でそんなことを考えていた千秋は、くるりと自分のほうを向いた高耶に、おっと眉をあげて見せた。
「なぁ、オレ、いいこ だっただろう?」
それだけで何が言いたいのかが分かって、千秋はニッと笑う。
「どうだろぉなぁ?」
「いいこだった!ニンジンも たべたし、ピーマンも たべたぞ!」
それに外から帰ってきたら手も洗ったと、この一月ばかりやってきたといういいこの条件らしきものを羅列していく高耶にその後で直江も思わず口元を綻ばせる。
だが、
「なおえ、オレ、いいこだったよな?」
と、振り返って尋ねられて慌てて直江は顔を引き締めた。
「えぇ、いつもいい子ですけど、特にいい子でしたよ」
確かに高耶の言うとおり、普段ならしぶしぶ食べるニンジンもピーマンも、時折忘れる手洗いも言われずともやっていた。
「じゃぁ!」
直江の言葉にぱぁっと顔を輝かせる。それがまた、愛しくて直江は少し寝癖のついている高耶の髪を指で梳きながら、千秋にちらりと視線を走らせた。それに、了解と目線で千秋が答えたのは、高耶には見えていない。
「はい、ちゃんと約束のものを誕生日プレゼントに用意しました」
ほら、後ろを向いて、と言われると同時にくるりと振り返った高耶の目に飛び込んできたのは、千秋がつい今さっき隠していた場所から持ってきた水槽だ。気が付いたら、部屋の隅にあった小さな台の上にちょこんと置いてある水槽。それに高耶は飛びついた。
「カメ!!」
そう、水槽の中にいるのは、正式名称ミシシッピアカミミガメ。俗称ミドリガメだ。
一月ほど前、ホームショップに買い物に行ったときに、高耶が唐突に、本当に前触れもなくミドリガメに一目ぼれしたのだ。猫や犬を一通り直江と手を繋ぎ見た後、色とりどりの熱帯魚が売られているたくさんの水槽が並んでいるところにでた。そして、その水槽の一番左下にある水槽の前で高耶の足がぴたりと止まった。そこにいたのが、ミドリガメだ。
水槽の中には数cmの水に底には砂利、レンガのような石が陸代わりにおいてあった。そしてその石の上にカメが乗り、さらにそのカメの上にカメが乗っていて、三段重ねぐらいになっているミドリガメがライトにあたり、うつらうつらと日光浴をしている。その様子は確かに見物だったが、高耶の口から飛び出したのは、カメを飼いたいという予想もしない言葉だった。
最初こそ、あまり実物では見たことのないカメに目を奪われただけだろうと思ったが、高耶の目を覗き込んでみれば、それが本気なのが分かった。だから、一月。一月経ってもまだカメが欲しいと思えば、飼わしてやろうと千秋と二人で相談した後に決めた。
その結果が、この水槽、と言うわけだ。
「いつのまに、うちにきたんだ?!」
高耶は水槽を両手を広げて抱え込むようにして、直江と千秋を交互に見やる。それに二人は、
「昨日のうちに、千秋に買ってきてもらったんですよ」
「俺様が、一番可愛いやつを選んだんだからな」
と、ほぼ同時に答えた。
「きのうか?きのう、ちあきが、すこしようすがおかしかったのは、そのせいか」
帰ってきたときに多少挙動が不振だったのを思い出したのか、高耶はそうかそうか、と納得顔で頷く。それから、また嬉しげに水槽を覗き込んだ。
全体的に緑色で目の両脇にうっすらと赤っぽいところがある。
「名前、決めたんですか?」
そんな高耶の横に行き、一緒に水槽を覗き込めば、突然現れた人間に驚いているのか、亀島と呼ぶらしい陸地の下の空洞に隠れているカメが見える。
「まだ、きめてない。だって、かおをみてからきめなくちゃ、かわいそうだ」
確かに、名前が最初にあったのでは、いま目の前にいるこのカメでなくとも、カメであればどれでもよかったことになる。それでは、カメに失礼だと言う高耶に、千秋と直江は思わず目を合わせた。子供と言うのは、親も気が付かないうちに成長するというが、本当らしい。
嬉しいけれど、少しだけどこか寂しくなるのを隠して、千秋も水槽の前にやってきて、ポンッと高耶の頭の上に手を置いた。
「で、どうする?高耶が親なんだぞ」
「おう。う〜ん・・・・・・かめ、なんてなまえが いい?」
高耶は悩んで、逆にカメに聞いてみたが、カメが答えるはずもない。
だが代わりに、少し覗きこまれるのに慣れたのか、下に敷いていある砂利の上をわずかに移動し始めた。
「トテトテしてる!」
水の浮揚力を借りて歩いているのか泳いでいるのか分からないその動きは、確かに高耶の表現したとおりに“トタトタ”ではなく“トテトテ”というのが似つかわしい。
「なぁ、高耶。高耶が親なんだから、“たかや”って文字から取ったらどうだ?」
ふと思いついたように言った千秋の言葉に、直江もいいですね、と笑いかける。
「高、だと少し紛らわしいですかね・・・」
「じゃぁ、たぁ、だ!!」
高耶が二人に囲まれて精一杯に背を伸ばして、叫んだ。
「たぁちゃんですか、いいですね」
「うん、いいんじゃねぇか?」
二人からの同意を得られて、高耶は瞳を輝かせる。
「たぁ、なかよくしような。そんで、おおきくなったら、たぁも いっしょに ねような!」
想像もしていなかった高耶のその言葉に、大人二人は思わず絶句したのだった。


お誕生日おめでとう♪


というわけで、Sweet.Familyの誕生日小説でした。
贈り物がカメ。カメ…
でも、カメは可愛いんです(力説)!
カク言う私は、飼いはじめて一月の初心者飼い主なのですv
もう、可愛くて可愛くて♪
こんなに可愛いものだとは思いませんでした。
そして、あまりの可愛さに高耶に飼わせよう!と思って、
今回こんな話になりました(笑)
ちなみに、お名前も同じです。
もし、興味をもたれた方!!
こちらにうちのたぁちゃんの写真がありますので、ぜひぜひ覗いてやってくださいぃ。
ただいま、管理人、めろめろです(笑)
このネタで高耶になりきってブログを書こうかと思うぐらいに
ではでは、良ければ、掲示板拍手に感想等お寄せくださいませv



 
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