〜独占欲〜 


「遅い!!」
高耶は腕時計を睨みながら、うめく。
5時10分という事は、既に待ち合わせ時間から十分過ぎている。
つまり、約束の時間よりも早く来てしまった高耶は、かれこれ三十分も待っている事になるのだ。
早く来てしまったからと言って、相手も早く来るかもしれないから店を覗きに行くことも出来ず、
高耶は律儀にそこに立ち続けていた。
それなのに、普段三十分は早く来る男が今日に限って時間を過ぎてもやってこない。
事故に遭えば、自分に分からない筈がないから、渋滞にでも巻き込まれたのだろう。
 「だから、家で待ち合わせてから出かけようって、言ったのに。」
ぶつぶつと、文句を言うがそれに答える人間はここにはいない。
そんな虚しさを感じて、高耶はため息をついた。
久しぶりに外で晩御飯を食べに行くことになった時、直江は「そのほうがデートみたいでしょう?」と、
外で待ち合わせることを望んだのだ。
高耶には同じ家に住んでいるのに、外で待ち合わせる必要性を感じられなかったのだが、
わざわざ拒絶する理由もなく、とくに考える事もなく承諾した。
それが、今のような事態を起こしているのだとを思うと、多少恨めしく思わないでもない。
もう一つ、ため息をつこうとした時、ふと隣に直江ではない誰かの気配を感じて、高耶は顔を上げた。
そこには、今風の服に身を包んだ女の子が二人立っている。
しかし、今風とは言っても嫌悪感を抱かせるほどではない。
どちらかと言えば、好感を抱くであろう。
 「あの、よかったら私たちと遊びませんか?」
どうやら、長い間一人で立っている高耶を誘いに来たようだ。

高耶は女性にもてる。
それは周りの人間ほとんどが認めることだが、本人には全く自覚がない。
街を歩いていると振り向いていく人間も多いのだが、
高耶は隣にいる直江が見られているのだとばかり思っているのだ。
だから、自分がなんぱされていると判断するまで多少なりとも時間が必要だった。
しかし、そうかも、とは思っても理解は出来ない。
何故、自分なんかに声をかけるのか分からない。
 「・・・それって、本当にオレに言ってんの?」
高耶の間の抜けた質問に女の子の間から黄色い声が上がる。
『どう見ても染まっていないかっこいい男子』、というので受けているようなのだが、
高耶には何でそういう反応が返ってくるのか分からない。
 「あの・・・」
 「あっ、ごめんなさい。それで、よかったらどうですか?」
どう、と聞かれ、断る文句が出てこなくて言葉に詰まる。
こんな時に直江がいれば、と思うが、ここにいない者を当てにしても始まらない。
 「あっ、その、オレ知り合いと約束してるから、だから・・・」
 「女の方ですか?」
 「えっ?いや、男だけど。」
 「それだったら、その方も一緒にとかどうですか?
  私たちも二人だから、ちょうどでしょう?」
かなり強引な誘いに、高耶はなんと断ればいいのか分からない。
まさか、待ち合わせてる男が恋人だと、ここで言うわけにもいかず、しどろもどろに、言葉を紡ぐ。
 「でも、そう、これから行く所決まってるからさ、ごめん。」
そう言って、逃げるようにその場所を離れる。
ここから離れれば、直江が自分を見つけにくくなるが、あそこにいて、断るだけの自信はないのだから仕方がない。
見つけられなければ、何らかの方法で連絡を取ってくるだろう。
そう考えて、高耶はもといた場所から死角になる辺りで、足を止めた。
後ろを振り返るが、さすがに女の子達が追ってくる気配はない。
ほっと、息を吐いたとき不意に後ろから声をかけられた。
今度こそ、直江だ。
高耶は何もなかったよな顔を急いで作って、後ろを振り向いた。
 「遅い!」
そんな高耶に気付いていないのか、直江は申し訳なさそうな顔で謝る。
 「すみません、道が思っていたよりも混んでまして。でも、待ち合わせ場所にいないから少し探したんですよ。」
 「あぁ、ごめん、ちょっとな。」
高耶は直江の言葉がおかしい事に気付く事もなく、謝った。
よく考えれば、高耶はたった今待ち合わせ場所から離れたところなのだから、例え少しでも、“探した”はずがないのだ。
しかし、高耶は自分もその事にあまり触れたくないから、深く考えない。
だから、直江のいつもとは違う様子にも気付けない。
 「では、行きましょうか。レストランに予約が入れてありますので。」
優しく、言葉を紡いでいるのに、直江のその目には暗い光がともっている。

 「んっ、やぁ・・・」
レストランで食事をとって、いざ帰ろうとした時、直江は有無を言わさず、高耶をホテルの部屋へと連れ込んだ。
そして、何すんだ、と直江を振り向いた高耶の言葉を己の唇で奪った。
それから、すでに三十分。
直江は何も言うことなく、高耶の上半身にのみ愛撫を施し続けている。
 「やっ・・。なおぇ・・・」
下半身に触れることなく続けられる愛撫に高耶は、快感よりもそれを上回る苦痛を感じ始めていた。
思わず下に伸びる手は直江によって封じられた。
 「なんで、こんなことすんだよぉ・・・」
その問いに答えることなく、直江は再び深く高耶に口付ける。
貪るように口腔内を吸い、舐め挙げる。
どちらからともなく、飲みきれなかった雫がこぼれ、高耶の頬を濡らした。
それを見届けてから、直江はようやっと高耶の下肢へと手を伸ばした。
 「んっ・・・」
待っていた感触に高耶の背がわずかにしなる。
下着ごと一気に脱がせ、直江はすでに硬くなっているソレに息を吹きかけた。
 「・・・もう、こんなになってるの?まだ触ってもないのに・・・」
羞恥心を掻き立てるような言葉に高耶は顔を紅くして、腰を隠そうと、体を動かす。
しかし、既に直江に組み敷かれているため、逃れられるはずがない。
 「直江!」
何とか怒鳴るが、逆にその振動が自分への刺激になって高耶は目を硬く瞑った。
 「達かせてほしい?」
低く、高耶の耳もとで呟く。
救いの手ともいえるその言葉に、高耶は素直に頷く事も出来ずに顔を背ける。
そんな高耶の心情を読み取っている直江は意地悪く笑って、触れるだけのわずかな愛撫を加えた。
 「んんっ・・・ぁ・・・」
しかし、そんな曖昧なだけの愛撫は高耶の事を追い詰めるだけだ。
 「達かせてほしい?」
先ほどと同じ問い。
今度はそのささやきをはねつけるだけの意志を持てない。
必死になって頷く高耶に直江は小さく笑う。
 「分かりました。」
聞こえていないだろう高耶に答え、直江は高耶自身を口に含んだ。
湿ったやわらかい感触に高耶の体が期待に震える。
それを直に感じながら、直江は高耶を達かせるために先ほどまでとはうって変わった激しい愛撫を施す。
 「はっ、あ・・・ん、やぁぁぁ・・・・・」
急激な快感に耐えられなくなって高耶は直江の口に己の体液を吐き出した。

ようやっと、一度目の絶頂を迎える事を許された高耶は、
散じそうな意識をかき集める事も出来ずに、直江の前でゆるく目を閉じ、肩で息をしている。
それを見つめながら直江は夕方自分の目の前で繰り広げられた光景を思い出していた。
あの、地獄絵図のような光景・・・

高耶の誰よりもそばにいる直江だから、周りの女性、いや女性に限らず男でさえも
彼に一瞬、目を奪われているのを知っている。
それでも、自分が隣にいるときはまだいいのだ。
高耶がそんなあからさまな視線を顧みることなく、自分だけを見てくれていると分かるから。
だが、高耶の隣でなければ、そんな自信はすぐに崩れる。
特に、今日みたいに手の届かない、でも自分の視界には、はっきりと映る所で自分以外の人間が
そういう目で高耶を見、話し掛けるなどというのは耐えられない。
どのような誘いを受けているのかは分からなくても、断っているだろうことは分かっていた。
でも、考えてしまう。
もしかしたら、いつか彼は自分のもとを去るのではないだろうか・・・
今日のはそれの予行練習なのではないだろうか・・・
そして、己の身さえも燃やし尽くすほどの嫉妬を御しきれなくなる。
 
 二度と、他人の目に触れさせたくない。
  彼の瞳に、自分以外の者が映るのを許せない。
  彼の声を他人に聞かせたくない。
  唇に自分以外の名が上がるのは耐えられない。

できる事ならどこかに閉じ込めてしまいたい。
―――――高耶さん・・・――――――――

 「直江?」
ようやっと、落ち着いたらしい高耶の声に直江は現実に引き戻される。
嫉妬に狂った目で高耶を捕らえ、微笑を浮かべる。
 「高耶さん・・・」
自分の声が消える前に高耶に口付け、行為を再開する。
右手を達ったばかりの高耶のソコに絡ませ、左手は後ろにまわす。
今まで何度も直江を受け入れてきた箇所を探り、思い切り指を突き立てた。
 「やっ!・・・んんんっ、は、あぁぁ・・・」
一瞬直江の指を押し返すようにうごめいた後に今度は誘い入れるように壁が収縮する。
指を徐々に増やし、我が物顔で高耶の中を蹂躙する。
すると、それに反応して、高耶の体が揺れる。
少しでも多く快感を読み取ろうと、直江を感じようと腰が動く。
三本に増えた指では物足りないと、高耶の前は白濁した涙を流している。
部屋には高耶の喘ぎ声がひっきりなしに響いていた。 
 「なお、ぇ・・・も・・・ほし・・ぃ・・」
高耶が散る声を集めて直江に請う。
それに無言で答え、直江は指を一気に引き抜いた。


突然なくなった質量を求めるように入口が音を立てる。
 「そんなに、欲しがらなくても、ちゃんとあげますよ・・・」
直江が低く、高耶の耳元で呟く。
その言葉がきちんと高耶に伝わったのかは分からない。
でも、おそらく聞こえていても意味はわかってないだろう。
内から燃やすような熱は高耶から正常な意識を奪っているだろうから。
 「いきますよ・・・」
擦れ声で囁き、高耶を貫く。
 「やぁぁぁぁ・・・・・・・」
高耶の口から甲高い悲鳴が上がる。
それに気を止める事もなく直江は最奥を目指す。
 「やぁっ・・・なおえ、なお・・・」
何度も自分を呼ぶ愛しい人に口付け、腰を打ちつける。
他にすべてのものを追い出すように。
自分だけが彼の中に入れるのだ、ということを知らしめるように。
 「高耶さん・・・・俺だけを見て・・・」
直江の悲痛な声を掻き消すように高耶の嬌声が上がった。


 (何度、交わったんだろう・・・)
高耶は白み始めた窓を見ながらボーっと思う。
何度か少しの間、気を失っていたようだが、それでもずっと抱き合っていた。
今、直江はシャワーを浴びに行っている。
高耶は寝ているものだと思っているだろう。
実際さっき、意識が戻ったのだからそれも仕方がない。
ため息をつく。
昨夜、いや、もう今朝というべきか、とにかくあの直江の行動の裏には
猛烈な独占欲があることを高耶は気付いていた。
おそらく、自分が女性に声を掛けられていたのを見ていたのだ。
だったら助けてくれればよかったのに、と思わないでもない。
でも、それと同時に直江の一歩も動けなかっただろう、心情が痛いほど分かる。
女性が直江を振り返るたびに自分も恐怖を感じるから。
そのたびに願う。
居るはずもない、あるいは居ても人の願い事ごときでは動かない神に祈らないではいられない。

――――他に何もいらないから、直江だけを自分から取り上げない下さい
                       直江だけを自分の手元に残してください―――――――――

今も、心の底から祈っている。
同じ事を。

――――――――――神よ、憐れみたまえ。――――――――――――――

他に、何もいらないという、この想いはどうすれば神に、そしてなによりも直江に伝わるのか。

直江、お前が欲しい。

心の底からそう、願う。

貪るようにこの身を犯され、自分の中の熱に気付かされる。

こんなんじゃ足りない・・・
直江をまた欲しいと、思う。
あの、熱い想いで貫いて欲しい。
どこまで、この体は淫乱なのか・・・
自分の考えに高耶は苦笑する。
でも、そんな羞恥心さえもこの独占欲の前では無力だ。

なにも、相手を他の人間に見せたくないのは直江だけではない。
自分の方がその想いは強いかもしれないと高耶は思う。

―――――――――神よ・・・――――――――――――――――――――


やがて、現れる直江は高耶と再び、深く、交わる・・・・・・・・
世界には二人しか居ないのだと、気付くそのときまで・・・・


2503リク小説、いかがでしたでしょうか?
リク内容は鬼畜な直江・・・ノルマ不達成かも・・・
すみませんんん。
裏小説と呼べそうなものはこれで二本目です。
「ぬるいな」と思われるかは分かりませんが、今はこれが限界です、たぶん・・・
だって、表現力がないし(泣)

こんな管理人ですが、これからもよろしくお付き合いください。


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