be with you
前編
愛してる・・・
何度この言葉を口にしただろう。
そして、何度胸をかきむしるような気持ちになっただろう。
それはいっそ、吐き気を覚えるほどで。

直江、オレはお前を忘れたりはしない。
お前を忘れて、他のやつと幸せになんかなるつもりはない。
そんなことは赦せないから。
そして、望んでもいないから。

ただ願わくば、お前は幸せになって欲しい。

それが自分の心に蓋をして、そして、お前に嘘をついてまでお前から離れた唯一の真実だから・・・

オレは何度でも、返事のない愛の言葉を紡ぎ続ける。
何度でも、何度でも、いつでも。

――愛してる、直江。
     お前だけを永遠に・・・――






友達と遊びに行くと言っていた美弥が家を出ると、先ほどまでの華やかな空気が去り、家の中に静寂が訪れる。静寂の向こうからは、外で遊んでいるのだろう楽しそうな子供のはしゃぎ声やおば様たちの談笑。掃除や、洗濯の音が響いてくる。
そんな生活の音が耐えれなくなって、高耶は暫くするとリモコンに手を伸ばし、テレビのスイッチを入れた。ピンという電気が走る音がした後に暗かった画面に明かりが灯り、くだらない昼間の番組が流れる。何となく、何も考えずに順々にチャンネルを切り替えていって、不意にその指が止まった。リモコンが高耶の手から滑り落ちていく。しかし、その事に気が付きもせずに高耶はテレビの画面に見入っていた。知らず知らずに身を乗り出し、触れようとするかのように手を伸ばす。
「なおえ・・・」
力なく零れた言葉はテレビの中の声にかき消され、そのまま分解されてしまう。
高耶が凝視する先で一年と少し前のドラマが進行していた。人気のあった単発のドラマは、視聴者の要望に応えて、休みの日の昼間という時間に再放送されていたらしい。
『愛してる・・・』
恋人を亡くした男は家柄の違いから葬式に出ることも赦されず、二人でよく歩いた公園で一人拳を握り締めていた。苦しげに寄せられた眉、硬く閉じられた瞳。涙は流れていないのに、泣いているのだと分かるその切ない表情に高耶の胸は締め付けられる。
恋人の死という悲恋で終わるこの物語は、悲恋だからこその美しさと儚さと、そして僅かな夢を与える。新たな道を歩むという勇気と共に。
自然と流れ出る涙を拭うことも忘れ、高耶は画面いっぱいに映し出された男を見つめる。もう二度と側で見ることの敵わない顔でもこうしてブラウン管越しになら何度でも見ることが出来る。それが幸運なのか、それとも不幸なのか、それは高耶には分からない。
やがて、すでに終わりかけだったドラマは終焉を迎え、話の中のシーンがまるで走馬灯のように流され始めた。その画の上に、ドラマに出てきた俳優の名前が現れる。
――主演俳優:橘義明――
押しも押されもしない、人気実力派俳優の名前がもったいぶるように最後に現れ、そして、ゆっくりとした音楽の中CMへと移り変わっていった。

賑やかなCMに変わっても高耶はテレビのあるほうを見遣っていた。しかし、その瞳にCMは映っていない。ただ、そちらを向いているだけ。あふれ出た涙が乾き、後だけが僅かに残っても高耶は動かなかった。動こうという思考が生まれてこない。
そんな高耶を現実に引き戻すようにけたたましい電話のベルが鳴り出した。
一瞬何の音かわからなかった高耶だが、やがてそれが電話の音だとわかると、急いで立ち上がり受話器に手を伸ばした。
「はい、仰木・・・・・・譲?」
電話を取ると、賑やかな親友の声が耳を叩き、高耶は苦笑と共に名前を呼ぶ。高耶のそんなニュアンスを嗅ぎ取って拗ねたように言葉を返してくるが、譲はすぐに再び楽しそうな声に戻り用件に入った。回りが賑やかなのは外から掛けているかららしい。
「あぁ、今からならいいけど・・・分かった。じゃぁな」
暇なら出てこないかというお誘いに1も2もなく承諾すると高耶は受話器をおいた。いつもながら唐突な奴だと笑うその顔に先ほどまでの感情の消えた重さはない。
まるで 何事もなかったようにテレビを消すと、高耶は立ち上がり自分の部屋へと入った。ズボンのポケットに財布を入れ、上着だけ着替えてから再びリビングに戻る。美弥のほうが先に帰ってきたら心配するかもしれないなと思い、電話機の所に常備されているメモ帳を一枚破き取ると、近くにあったペンで譲と出かけてくると書き、目立つ所においた。これなら、自分の帰りが遅くなっても美弥が心配することはないだろう。美弥の譲への信頼度は兄である自分をはるかに超えているのではないかと思うほどなのだ。
心配はしないかも知れなけれど、帰ってきたら「もう少し読める字で書いてよね。おかげで解読に時間かかっちゃったじゃない」、ぐらいの嫌味は言われるかもしれないなと、自分の書いたメモを見て笑い、それから高耶は家を後にした。

待ち合わせをしたのは、駅前の大きなテレビの前。もっぱらここらへんでの待ち合わせ場所とされているだけあって、休日である今日はさすがに人も多い。
譲はまだ来ておらず、高耶は手持ち無沙汰に大画面へと視線を移した。車のCMが終わると、画面を何気なく見ていた周囲の女性達から小さなどよめきが起き、高耶は思わず息を止めた。今日はよく橘義明”を見かける日だ。
食い入るように画面に見入る高耶の回りでも、女性達が嬉しそうに画面を見ている。質問形式で進む番組で、アナウンサーの挨拶から始まり、客である橘義明の今までの遍歴を写真とトーク交じりに展開していく。

――橘さんのお父様も偉大な俳優ですが、やはりその影響を受けて俳優になられたんですか?
――はい、そうですね。父の影響が大きいと思います。

画面の中で弾む会話はやがて近況へと映っていく。
弾んでいる会話をこなしていく直江を見つめていた高耶は不意に「少し、痩せたかな・・・」と、呟いた。頬のあたりが一年前よりも僅かにシャープになったような気がする。もっとも、優秀なマネージャーがついているから痩せ過ぎたり太ったりというのはありえない。だから、おそらく誰も気が付いていないだろう。
高耶だから気が付ける僅かな違い。

――そう言えば、最近・・・

画面を見ながら思考の世界へと意識を飛ばしていた高耶は、後から肩を叩かれて振り返った。
「高耶!!」
「あっ、譲・・・」
突然現実に引き戻された高耶は少し惚けたような様子で自分を呼び出した譲の名前を呟く。それに譲は溜息をつき、それから高耶の両肩に手を乗せた。
「高耶、・・・・・・また直江さんの事考えてたの?」
言いずらそうに少し言葉を捜し、それでも遠回りに言っても同じだと譲は結局いつもと同じ文句でそう尋ねる。言い当てられた高耶は気まずそうに目を逸らした。
「やっぱり、赦せないな、直江さん。あれだけ高耶を泣かすなって言ったのに・・・」
「譲!直江は悪くない!!」
放っておけばつらつらと直江の悪口を並べていくであろう譲を、高耶は少しだけ強い口調で止める。譲が自分の事を思ってそう言ってくれているのは分かっているが、それでも直江の悪口を言われるのは嫌だった。ましてや直江は何も悪くないのだ。
「譲、いつも言ってるだろ。直江が悪いんじゃない。オレが一方的にあいつを振ったんだから」

to be continued


23723HITのリクエスト小説です。
いかがでしょうか?
一度は書いてみたかった、俳優直江vv
テレビに出ている直江を書くのはとても楽しかったです。
次はやっぱり歌手な高耶さんでしょうかねぇ(笑)

さて、続きですが、リクエストしてくださいました
緋咲杏那さまのHP
に上げてもらっています
よかったら読みに行ってやって下さい。
それに、こちらのページはこことは比べ物にならないぐらい
素敵なもので一杯ですよvv


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